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東京地方裁判所 平成9年(ワ)20960号 判決

原告 丸山幸男

右訴訟代理人弁護士 中田孝

同 阿部一博

右中田孝訴訟復代理人弁護士 宮入陽子

被告 大場登美

右訴訟代理人弁護士 小山勲

同 林原菜穂子

主文

一  原告が被告から賃借している別紙物件目録記載の建物の賃料は、平成九年一〇月二三日以降、月額二九万五〇〇〇円であることを確認する。

二  被告は、原告に対し、金一五五万八〇〇〇円及びそのうち別表差額欄記載の各金額に対する利息始期欄記載の日から各支払済みまで年一割の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告に対し、金八万二〇〇〇円及びこれに対する平成一二年一二月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、これを五分し、その二を原告の、その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告が被告から賃借している別紙物件目録記載の建物の賃料は、平成九年一〇月二三日以降、月額二六万五一〇〇円であることを確認する。

二  被告は、原告に対し、金二六九万四二〇〇円及びそのうち別表原告主張差額欄記載の各金額に対する利息始期欄記載の日から各支払済みまで年一割の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告に対し、金一四万一八〇〇円及びこれに対する平成一二年一二月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を賃借している原告が、その賃貸人である被告に対し、賃料が不相当になったとして借地借家法三二条一項に基づき減額改定の意思表示をした上で相当賃料の確認を求め、かつ、同条三項に基づき右意思表示後に支払った従前賃料と相当賃料との差額及びこれに対する年一割の割合による利息の支払を求めるとともに、不当利得返還請求権に基づき従前賃料の二か月分の割合により支払った更新料につき相当賃料の二か月分との差額の支払を求める事案である。

一  当事者間に争いのない事実

1  原告は、昭和五三年一一月二六日以降、被告から本件建物を次の約定の下に賃借している(以下、両者間の契約を「本件賃貸借契約」という。)。

(目的) 飲食店店舗

(賃料) 原告と被告間で別途締結する覚書による金額

毎月二八日限り翌月分支払

(更新料) 賃料の二か月分

2  本件賃貸借契約における賃料(月額、以下同じ。)は、平成四年一二月一日以降、三三万六〇〇〇円(以下「従前賃料」という。)であった。

3  原告は、従前賃料が不相当になったとして、平成九年一〇月二三日送達された本件訴状により被告に対し、相当賃料は二六万五一〇〇円であるとして減額の意思表示をした。

4  原告は、本件訴訟係属後、別表該当年月欄記載の各月分の賃料として、遅くともその前月の末日までに従前賃料を被告に支払った。

5  本件賃貸借契約が平成一〇年一一月三〇日に更新されたことから、原告は、平成一一年三月二六日、被告に対し、約定の更新料として従前賃料の二か月分に当たる六七万二〇〇〇円を支払った。

6  本件は訴訟係属後に自庁調停に付され、調停委員から賃料を二九万五〇〇〇円とする調停案が提示されたが、原告及び被告ともに右調停案に同意したものの、消費税の負担についての意見の相違等から合意の成立に至らなかった。

二  争点及び当事者の主張の要旨

本件の争点は、原告から減額の意思表示がされた平成九年一〇月二三日以降の相当賃料がいくらかである。

1  原告

(一) 不動産鑑定士の評価(甲第七号証の不動産鑑定評価書)によれば、本件建物の適正支払賃料は二六万五一〇〇円とされている上、本件賃貸借契約における対象面積の中には原告が使用できない二ないし四階への専用通路部分等約六・七二平方メートル及び一階から地下への階段部分約二・七六平方メートルが含まれていること、本件建物は、老朽化したビルで、使い勝手が悪く、その二ないし四階は平成四年以降空家となっていること、近隣は繁華性に欠ける商店地域であること等の諸事情を考慮すると、相当賃料は二六万五一〇〇円とすべきである。

(二) 被告は、消費税の免税事業者であり、現に本件建物の賃料について消費税を納付していないから、これを原告に転嫁することはできず、相当賃料を定めるに当たって消費税分を加算することはできない。

2  被告

(一) 甲第七号証の不動産鑑定評価書は、試算賃料を算出するために用いた各評価方法に合理性がなく、信用性に欠けており、これを根拠に賃料を二六万五一〇〇円が相当であるとすることはできない。なお、原告は、契約時から通路部分が含まれているため一階部分の正確な面積を算出することができず、その代わりに空調機器の屋外設置及び建物外部への造作設置を認めることで了解しており、二ないし四階部分はテナント募集を中止しているにすぎず、近隣を繁華性が欠けるとする根拠はないのであって、原告の指摘する諸点を賃料算定に当たって考慮することは相当でない。

(二) 原告は、本件賃貸借契約における賃料を定めるために締結された覚書において消費税を負担する旨合意しており、かつ、現時点において免税事業者に該当する被告も本件建物の修理代金等の仕入れについては消費税を負担しているのであるから、相当賃料を定めるに当たっては五パーセントの消費税分を加えた金額とすべきである。

第三当裁判所の判断

一  証拠(甲第一号証、第二号証の一、第三号証の一、第四号証、第七号証、第八号証の一ないし二六、第九号証、第一一号証の一ないし六、第一四号証、乙第一号証、第三号証ないし第七号証)及び弁論の全趣旨によると、本件建物は、JR山手線の渋谷駅から約七五〇メートル隔てた、国道二四六号線の沿道に所在し、中層の店舗兼事務所等が多く、やや繁華性に乏しい商業地域にあること、本件建物を含む一棟の建物は、昭和三九年一二月に建築された、地上四階建(地下一階付)の鉄筋コンクリート造建物で、全体的に老朽化しており、随所に鉄筋の錆びた部分やコンクリートの剥離した部分があり、近隣の建物に比して外観上見劣りがするばかりでなく、エレベーターがなく、機能的にも劣っていること、平成四年以降、本件建物以外の二ないし四階の貸室については賃借人が入っておらず、使用されていないこと、本件賃貸借契約に表示されている対象面積合計七四・三二平方メートルの中には原告において利用できない二ないし四階への専用階段室部分(約六・七二平方メートル)が含まれていること、原告は、昭和五三年一一月二六日から本件建物を賃借しているが、その賃料は、昭和六三年一二月一日から二九万円、平成二年一二月一日から三一万六〇〇〇円、平成四年一二月一日から三三万六〇〇〇円と推移してきていること、本件建物に係る固定資産税課税標準額は、昭和五〇年度から平成五年度まではいずれも六五一万一〇〇〇円、平成六年度から平成九年度まではいずれも六三一万五六〇〇円と低減していること、本件建物及びその敷地に係る固定資産税及び都市計画税の合計額は、平成元年度が五六万七三〇〇円、平成二年度が五九万一三〇〇円、平成三年度が六七万四九〇〇円、平成四年度が七七万三九〇〇円、平成五年度が八三万八〇〇〇円、平成六年度が九四万五〇〇〇円、平成七年度が一〇〇万六九〇〇円、平成八年度が一〇五万〇六〇〇円、平成九年度が九四万五〇〇〇円であること、以上の各事実を認めることができる。

そして、原告から本件建物の賃料の評価を依頼された不動産鑑定士(甲第七号証の不動産鑑定評価書)は、ほぼ右のような諸点を考慮した上、積算賃料を二八万六五〇〇円、比準賃料を二八万八八〇〇円、差額配分法による賃料を二九万六〇〇〇円、スライド法による賃料を二六万〇一〇〇円とした上で、積算賃料及び比準賃料を重視し、差額配分法による賃料をも考慮して、実質賃料を二九万円、支払賃料を二六万五一〇〇円(価格時点は平成九年八月五日)と評価している。

ところで、前認定の各事実、特に建物の老朽化とこれに伴う機能面の劣化、公租公課の推移に照らせば、従前賃料はある程度の減額を免れないというべきである。もっとも、右不動産鑑定士の評価額は、試算賃料のうち最も重視している比準賃料を求めるに際して用いた資料が事務所の賃貸事例であって、本件のように飲食店舗の場合にそのまま用いることができるか疑問が残るところであり、乙第六号証に照らすと、店舗目的の賃料は、事務所目的のそれよりやや高い傾向が看取されるところである。そこで、乙第六号証に掲記された近隣地域における店舗目的の賃貸借の賃料を勘酌し、かつ、減額の意思表示がされた平成九年当時における地価の下落状況並びにこれに伴う本件建物及びその敷地の公租公課の推移等にかんがみると、従前賃料からの減価は約一割強とするのが相当である。

以上の諸点に加え、前判示のとおり、本件訴訟係属後自庁調停に付された際、調停委員が、本件建物所在地付近の繁華性の程度や本件建物の老朽化の程度及びその機能性に及ぼす影響等のほか、現地見分の結果を踏まえて、相当賃料を二九万五〇〇〇円とする調停案を示したところ、原告及び被告ともに、右賃料自体については異存がなかったことを併せ考慮すれば、原告が減額の意思表示をした平成九年一一月二三日以降における賃料は、二九万五〇〇〇円とするのが相当である。

なお、被告は、相当賃料を算定するに当たって消費税相当分を加算すべきである旨主張するけれども、証拠(甲第一号証、乙第八号証)及び弁論の全趣旨によると、原告と被告は、平成五年二月一八日に渋谷簡易裁判所で成立した調停において平成三年一二月一日から平成四年一一月三〇日までの賃料を三一万六〇〇〇円、同年一二月一日から平成六年一一月三〇日までの賃料を三三万六〇〇〇円と定めるに当たって消費税は別途支払うものと合意し、これを受けて平成五年二月二七日に取り交わした覚書においても同様の合意をしていること、被告は、本件訴訟においても賃料と消費税は明確に区別される旨主張していることが認められ、消費税法においては消費税の課税標準は課税資産の譲渡等(資産の貸付けを含む。)の対価の額とされ、右対価の額は事業者の行う賃貸借においては賃料として収受される金銭であると解されることを考慮すると、相当賃料の中に消費税相当額が含まれると解する余地はないといわなければならない。

二  原告が被告に対し更新料は賃料の二か月分とするとの約定に基づき平成一一年三月二六日従前賃料の二か月分に当たる六七万二〇〇〇円を支払ったことは前判示のとおりであるところ、相当賃料は右更新料支払時より前の平成九年一一月から二九万五〇〇〇円とされたのであるから、被告は原告に対し右支払額と相当額との差額八万二〇〇〇円を不当利得として返還すべきこととなる。

三  以上の次第で、原告の本訴請求は、相当賃料が二九万五〇〇〇円であると確認し、これに伴い原告が被告に支払った従前賃料と相当賃料との差額四万一〇〇〇円の三八か月分(改定時期の翌月である平成九年一一月分から平成一二年一二月分まで)及びこれに対する支払日の後である各月の一日から支払済みまで借地借家法所定の年一割の割合による利息並びに更新料につき従前賃料による二か月分と相当賃料によるそれとの差額に相当する不当利得金八万二〇〇〇円及びこれに対する弁済期の翌日である平成一二年一二月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度において理由があるから、右部分を認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 齋藤隆)

(別紙)

物件目録

(所在) 渋谷区円山町二六番地二七

(家屋番号) 二六番二七の一

(種類) 居宅 事務所 店舗

(構造) 鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付四階建

(床面積) 一階 五八・七七平方メートル

二階 五八・七七平方メートル

三階 五八・七七平方メートル

四階 五八・七七平方メートル

地下一階 二二・二七平方メートル

右建物のうち、一階(五八・七七平方メートル)及び地下一階(二二・二七平方メートル)

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